子どもの後遺症、生理中の接種…若い世代とワクチンで知っておきたいこと

ワクチンの接種が進んできたことで、新型コロナウイルスとの闘いに一筋の光明が見えてきた。

一方で、国内で接種が進められているワクチンは、ファイザー製なら12歳未満、モデルナ製では18歳未満の子どもへの接種が認められていない。また、若い世代のワクチン接種もこれからだ。

この先の流行では、ワクチンの接種が承認されていない子どもや、若い世代での感染が目立ってくることになるだろう。

新型コロナウイルスやワクチンに関する正確な情報発信を進める医療従事者たちのプロジェクト「こびナビ」の副代表で、ベイラー医科大学・テキサス小児病院小児感染症科医の池田早希医師に、前回の「子どものリスク編」に続いて、小さな子どもが新型コロナウイルスに感染した場合に起こりうる後遺症や、比較的リスクが低いとされてきた若者がこの先ワクチンを接種する上で気をつけておきたい点について話を聞いた。

※取材は6月10日に実施され、その時点の情報に基づいている。

池田早希医師。

「こびナビ」副代表。ベイラー医科大学・テキサス小児病院の池田早希医師。

取材時の画面をキャプチャー

数は少ないけれど気をつけたい、コロナ合併症

—— コロナ後遺症について、大人の体験談を聞くケースは多いのですが、子どもが感染したときにも後遺症はあるのでしょうか?

池田:小児は相対的に重症化した人の数が少ないので後遺症についてあまり研究されていません。ただ、私が診察した患者さんでは、息苦しさやだるさが続いたというお子さんはいました。

小さいお子さんですと、味覚障害や嗅覚異常を訴えにくく、後遺症をピックアップしにくいということもあると思います。

—— 2020年にコロナ合併症として、全身の血管に炎症が起こる「川崎病」に似た症状が子どもにみられたというケースが話題になりました。

池田:これは、「多系統炎症性症候群(MIS-C)」という小児特有の合併症です。

MIS-Cは新型コロナウイルスに感染した数週間後(多くは無症状や軽症)、おそらく免疫応答の異常によって臓器などに炎症が生じる病気です。場合によっては臓器不全を起こすこともあります。

主に心血管系の炎症や消化器系の嘔吐や下痢といった症状が出ることが多いのですが、この症候群の一部の患者が「川崎病」の診断基準を満たしています。

アメリカだと感染者全体の約3400万人の13〜14%くらいが小児ですが、CDCにはそのうち4018人(小児感染者の0.1%程度)がMIS-Cを発症した報告されています。うち、亡くなったのは36人です(6月2日時点の情報)。

—— 日本でもこういう事例が報告されているのでしょうか?

池田:全ての症例を把握していませんが、日本でも川崎病の診断基準も満たした患者など、まれですがMIS-C患者が報告されています。ただ、過度に心配する必要はないと思います。

日本で少ないのは、みなさんが一生懸命感染対策をして感染者数を抑えられているため、小児の感染自体が少なく済んでいるからだと思います。また、報告では人口比以上にアフリカ系やヒスパニック系でのMIS-C患者が多く、肥満がリスクファクターであることが分かっています。人種差や肥満率の差も(日本でMIS-C患者が少ないことに)影響していると考えられます。

MIS-Cは、コロナにかかった記憶がない人(無症状感染者)でも結構発症しています。抗体検査で陽性だったり、PCR検査で自分は陰性だったけれど家族が陽性で濃厚接触者になったりしていることが多く、それが診断基準にも含まれています。

編集部注:国内の感染者数は約75万人で、小児(10代以下)の感染は約10%の約8万人。そこからMIS-Cを発症する割合が仮に欧米と同じ0.1%だとしても、国内でのMIS-C患者は数十人規模に留まる計算だ。池田医師は「国内での報告はそれよりも少ないので、人種差や肥満率の差なども影響しているかもしれない」と指摘する。

思春期の子どもへのワクチン接種の注意点は?

ファイザー社のワクチン

REUTERS/Dado Ruvic/Illustration/File Photo

—— リスクが低いとされている子どもでも、ワクチンの接種はしたほうが良いのでしょうか?(日本の場合、ファイザー製であれば12歳以上への接種が可能:6月20日段階)

池田:日本でも重症化して苦しんでいるお子さんがいることを考えると、安全に守れるのなら接種することが大事だと思います。

今、子どもたちはいろいろな行動制限によってストレスを溜めています。学校でも感染リスクの高い行動、例えば合唱コンクールなどはできません。ワクチンを打てれば、学校行事などをこれまでより安全に行うこともできるようになります。

米国CDCは、12歳以上の小児患者に関してもワクチン接種を推奨しています。

日本小児科学会は6月16日に、

  1. 小児を守るために周囲の成人の接種が重要、
  2. 重篤な基礎疾患のある子どもの接種により重症化を防ぐことができる
  3. 健康な子どもに関してはメリット(感染拡大予防等)とデメリット(副反応 等)を本人と養育者が十分理解し、接種前・中・後にきめ細やかな対応が必要

という要旨の声明を出しています。

—— 大人への接種だけでは不十分なのでしょうか?

池田:イスラエルから、大人のワクチン接種が進んだことで、当時は接種対象でなかった12歳以上の子どもの感染者数も相対的に減ってきたという報告があります。

ただ、これは海外渡航や移民の受け入れがある程度制限された中での結果です。これから(こういった移動が解禁され)経済を再開するにあたって、小児もワクチンを接種して守られることは重要だと思います。

また、今後大人の接種が進まないこともありえますし、新たな変異ウイルスの出現もありますので、12歳から15歳の子どもでも正確な情報を知った上でワクチンの接種を進めていくことはとても大事だと思います。

—— ワクチン接種時に子ども特有の副反応はありますか?

池田:臨床試験では、頭痛、発熱、寒気、関節痛、腕の痛みや腫れなど、一般的な副反応が若い世代で起こりやすいということが報告されています。

ワクチン接種時の副反応の報告

ワクチン接種時に生じる副反応。例えば「接種部の痛み」という副反応は8割の人が経験するが、人によって程度はさまざま。

—— 最近、若い人での心筋炎の報告が上がっていると聞きます。

池田:10代から24歳くらいまでの方で、ワクチンの接種後に起きた因果関係不明の健康上の問題(有害事象)として「心筋炎」が頻度は非常に稀ですが報告されています。

米国での分析で、稀ではあるのですが接種した人で心筋炎が起こった頻度が、接種しなかった場合の頻度よりも高いため、因果関係がある(=おそらく副反応である)可能性があります。

こちらに関しては6月23〜25日に開催される予定の米国ACIP(予防接種に関する諮問委員会)で詳細が議論される予定です。

頻度は非常に稀ですし、軽症で回復していますので過度に心配は不要ですが、ワクチン接種後に10代〜20代の男性に胸痛や息苦しさ、それにともなう立ちくらみなどがあった場合は、早めに病院を受診することは大事です。

また、先行して子どもへの接種を進めているアメリカでは有害事象を集めるシステムもしっかりしているので、今後そのデータも参考になるのではないかと思います。

編集部注:国内ではファイザーのワクチンの接種を開始してから5月30日までに、因果関係不明の健康上の問題(有害事象)として、軽症の心筋炎の報告が8件(7例)報告されている(100万人あたり0.8件)。厚生労働省のワクチン分科会副反応検討部会では、ワクチンを接種しない場合の心筋炎の発生頻度などの情報を精査しつつ、注意深く動向を見守っていく方針。

集団接種会場

集団接種会場の様子。写真は、福島県相馬市の接種会場。

REUTERS/Rocky Swift

—— 思春期の子どもなどがワクチンを接種する上で注意しておくべきことはありますか?注射に対する恐怖心などから、子どもは失神を起こすこともあると聞きます(いわゆる迷走神経反射と呼ばれる現象)。

池田:ワクチン接種に限らず、注射などで「迷走神経反射」が起きる頻度は若い方(10代)で多いです。

失神は脳への血流が減って起こりますので、そうならないように10代のお子さんの接種後15分は座るか、横になることが推奨されています。

痛みだけではなく、「不安感」なども迷走神経反射に影響しますので、不安を軽減するアプローチがとても重要です。しっかりと説明をしたり、楽しいムードを作ったりすることが大事だと思います。

アメリカでは、集団接種会場となる学校のスポーツチームのマスコットが会場にいたり、楽しい音楽をかけたり、風船があったり…お祭りムードにしているところもあるようです。私の病院にも、ワクチンの接種会場には風船がたくさんあります。

病気の子供たちの精神的な不安を軽減する「ファシリティドッグ」という専属の犬が遊びにきて、接種者を勇気づけたり、楽しいムードにして癒してくれたりもしています。

編集部注:6月21日現在、日本では政府が学校での集団接種に対して「推奨するものではない」と慎重な見解を示していると報じられた。

—— 若者への接種が始まったときに、一般的な副反応や迷走神経反射が高齢者よりも高い頻度で出ることは予想できそうですね。そのタイミングで、メディアはかつてのHPVワクチン報道(下記、注釈)のように過度に不安を助長しないようにしなければなりませんね。

池田:接種後の腕の痛みや発熱等の副反応は免疫が反応にしている時に起こります。比較的若い方に起こりやすいですが、数日以内によくなりますので心配いりません。

確かに報道には気をつけて頂き、感染症やワクチンが専門の正確な知識を持つ医師が内容を監修する必要があります。

若い方で迷走神経反射が起こりやすいということは報じて頂いて問題ないとは思いますが、報道の仕方は気をつけて頂きたいですね。不安を助長するような内容では困ります。先ほど述べたような対策やしっかりした説明が重要です。

編集部注:2013年、大半の子宮頸がんの原因とされているHPV(ヒトパピローマウイルス)への感染を予防できるHPVワクチンの定期接種が始まった際に、メディアが因果関係の分からない有害事象をセンセーショナルに報じることが続いた。

その後、厚生労働省からのHPVワクチン接種の積極的な推奨が停止され、現在もその状況が続いている。その結果、2000~03年度生まれの女性で、子宮頸がんの患者が計1万7000人、死者が計4000人増加するとの研究結果も報告されている。

—— 新型コロナウイルスのワクチン(mRNAワクチン)は、インフルエンザワクチンやHPVワクチンなどの他のワクチンと同時期に接種しても問題ないのでしょうか?(風疹ワクチンなどの生ワクチンを接種する場合、日本では27日以上間隔を空けることが推奨されている)

池田:当初、CDCは他のワクチンと前後2週間空けて接種するよう推奨していました。ただしそれは、危ないからというわけではなく、新しいワクチンの有害事象を正確に判断するためという意味合いが強かったからです。

mRNAワクチンは生ワクチンではありませんので、アメリカのワクチン諮問員会はアメリカで12歳以上への接種が緊急下承認された5月に、前後2週間の間隔を空けなくても接種可能としています。

ただし、厚生労働省はまだ前後2週間、間隔を空ける方針を変えていません

妊婦や子育て中、生理期間中のワクチン接種は?

新生児

fradis_photo/Shutterstock.com

——女性の中には、体調が変わりやすい生理期間中にワクチンを接種することに不安を感じている人もいるようです。

池田:海外では億単位の女性が既にワクチンを接種していますが、特に月経を避ける必要がありそうな副反応はみられていません。特に心配しなくて大丈夫だと思います。米国産婦人科学会は月経サイクルによって接種のタイミングを変更する必要はないとしています(資料)。

月経過多(経血量が多い状態)が起きるという噂もありますが、それを示すデータは今のところありません。

女性の体や月経周期は、環境の様々なストレスから影響を受けます。mRNAワクチンが生殖器に直接作用することはありませんが、発熱などのストレスに影響されることは可能性として考えられます。更なる研究や報告に期待します。

接種後辛いだるさや頭痛、発熱などが生じた場合は、解熱・鎮痛剤でしっかり対応してもらうことや、ワクチン接種に関係なく不正性器出血や経血量が多い方は産婦人科を受診して相談していただくことが大事だと思います。

—— 妊婦のワクチン接種についてはどう考えれば良いでしょうか?

池田: 妊婦も接種が可能です。

日本でファイザーのワクチンが特例承認される前に実施された臨床試験には、妊婦は含まれていませんでした。ただ、ワクチンのメカニズムや、動物実験の結果を見ると、基本的に安全だと考えられています。

また、アメリカでは12万人以上(6月14日の情報)の妊婦が既に接種をしていますし、そのうち数千人からの詳細報告があり、安全性の懸念は認められませんでした。接種していない場合(自然発生)と比べワクチン接種者で胎児の奇形が増えるとか、早産が増えるという事も全くありませんでした。

妊婦は新型コロナウイルスに感染してしまうと重症化するリスクがあるので、さまざまな学会から妊婦にも接種する機会が与えられるべきだと指摘されています。

編集部注:日本産婦人科学会も、妊婦への接種のメリットがリスクを上回ると判断している。

—— 出産後、授乳中の方はワクチンを接種しても問題ないのでしょうか?

池田:授乳中に関しては、世界的に大丈夫だと考えられています。mRNAワクチンが母乳の中に移行することは考えられないですし、仮に飲み込んだところで胃の中で分解されますので問題になる可能性は考えられません。

mRNA自体はとても不安定な物質ですので。

母親がワクチンを接種してから授乳した場合は、抗体が移行して、赤ちゃんを守る効果も期待されます。母乳中に含まれる抗体が赤ちゃんの粘膜をコーティングして、感染から守ってくれるんです。

—— 最後に、この先ワクチン接種を進めていく上、課題になりそうなことはなんだと感じていますか?

池田:アメリカでは、感染リスクが少ない人の間でのワクチン接種が鈍りつつあります。

大人のワクチン接種が進まないと、子どもは安全にはなりません。そこは課題になると思います。

また、ワクチンを接種することでどんなメリットがあるのかを伝える必要もあると思います。日本の場合、そのメリットが明確化されていないことは問題かもしれません。

友人と飲み会をしたいから、安全にスポーツをしたいから、安全に演奏会に行きたいから……。人にはそういうモチベーションがあると思うのですが、やっぱり自分にとってワクチンを打つ理由がないと打ちませんよね。

そこに対して明確に答えを与えてあげることが国として大事だなと思います。科学的な論文などで報告されている医学的・疫学的なデータを元に、ワクチン接種者が安全にできることの指針を出して欲しいです。

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(文・三ツ村崇志

編集部より:「心筋炎」に関する表現の一部を改めました。2021年6月22日 11:20

編集部より:初出時、mRNAワクチンの副反応の表の説明で「『発熱』という副反応は8割の人が経験する」と記載しておりましたが、「発熱」ではなく「接種部の痛み」の誤りです。お詫びして訂正いたします。2021年6月22日 8:50

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