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夫以外の第三者の精子を使う人工授精(AID)が、2019年に国内で約2600件行われ、前年比2割減となったことが、日本産科婦人科学会(日産婦)のまとめでわかった。生まれた子が精子提供者(ドナー)の情報を得る「出自を知る権利」への意識の高まりで、提供をためらう人が増えたことが背景にある。
AIDは、夫が無精子症などの夫婦が受ける不妊治療で、国内では1948年に始まった。現在、12医療機関が日産婦に実施を届け出る。プライバシー保護のため、提供は匿名だ。
まとめによると、2019年は夫婦819組に2641件の治療が行われ、90人が誕生した。治療件数の減少は3年連続となるが、今回の減少幅は22%で、18年の11%の倍になった。
大幅な減少の主な要因は、18年夏、国内有数の実績を持つ慶応大病院(東京)が、新規患者の予約を停止したことが大きい。17年秋から、ドナー候補に、出自を知る権利について「将来的に、子どもから情報開示の請求があった場合、応じる可能性もある」などと説明を始めたところ、ドナーが集まりにくくなったという。同様の事情から、治療を休止する届け出施設も相次ぐ。
医療機関での治療が減る一方で、SNSを介した精子の個人間取引が広がる。精子の安全性が不確かな上、ドナーが自らの経歴を偽るなどのトラブルもある。
石原理・埼玉医大教授は「精子提供の需要は変わらずある。安全な治療の受け皿を確保するには、『出自を知る権利』を認めた上で、養育の責任はないなどドナーの立場を明確にした法整備を急ぐ必要がある」と指摘している。